災害や事故の現場で活動したり、現場を目撃した後に起こる外傷性のストレスを「惨事ストレス」といいます。
筆者は2001年から惨事ストレスの研究と心理的支援を行ってきました。その経験から知ったことをいくつか紹介します。
惨事ストレスはもともと消防職員や自衛隊員、警察官などの職業的災害救援者が被るストレスととらえられてきました。しかし、研究が進むにつれ、ほかの職業の人も体験することがわかってきました。
新聞記者や報道カメラマンなどのジャーナリスト、被災地で被災者を支える公務員、被災地で子どもを支える教師や保育者、被災地で頑張るボランティア、そして被災地や事故現場で活躍する医師や看護師も、惨事ストレスを受けることがわかっています。
これらの人々は共通して、対象者を守ろうとする使命感を持ち、職業意識も強く、社会からも人を救ってくれるだろうと期待されています。
そのため自分がストレスを抱えていても、頑張り続けようとしがちです。中には自分がストレスを抱えているという自覚すらできない人もいます。
これらの職業人の中には、「人に頼らない」で問題を自分で解決することを好む人がいます。人に相談したり愚痴を言ったりして人に頼ることは「弱さ」の表れだと信じている人です。
こうした人は日常的な問題は自身で解決するので確かに「強い」のですが、大震災や大事故のような極端に衝撃的な出来事に遭うと、耐えきれず、ストレスが重症化することがあります。
本当にストレスに強い人(心理学ではレジリエントな人といいます)は、自分の状態を自覚し、人に相談したり、愚痴を聞いてもらったり、助けを求めます。自分が本当にしんどいときには人に頼る(人からサポートを受ける)のです。また、普段から頼れる人とのよい関係を築いています。
このように「人に頼れる強さ」を持った人が真に強い人だと感じます。
松井 豊(まつい・ゆたか)
社会心理学者。筑波大学名誉教授・消防大学校名誉教授、筑波大学働く人への心理支援開発研究センター研究員。対人関係、恋愛、惨事ストレスなどを研究している。
▼出典元 Nursing BUSINESS(ナーシングビジネス)2024年1月号
https://store.medica.co.jp/item/130212401
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