第5回 受容の原則(バイスティックの7原則)
あるがままの事実として受け入れる
人は、その人の持ち前の性格や育ってきた環境、それまでの生活上の経験によって、考え方や価値観などがそれぞれ異なります。
そのため、援助者が援助を行ううえで、どうしてそのような考えになるのか、なぜそういった行動をするのか理解できなかったり、クライアント(利用者)に対して好感がもてなかったりすることも多くあると思います。
私も日々、クライアントに接していると、自分の権利ばかりを主張するような人や、とても悲観的な考えの人などにしばしば遭遇します。
そのような場合、援助者はクライアントの個性や考えを頭から否定するのではなく、目の前のことをあるがままの事実として一度受け入れることが大切です。
つい命令口調になっていないか
例えば、相手から強い口調で権利ばかりを主張されると、ついこちらもきつい口調になってしまいがちですが、そこはその人の個性として一旦受け止めて、対人援助のプロとして対応することが大切です。
これは、相手から何を言われても援助者としてがまんすべきであるということではありません。
その人がどうしてそのような言動をとるのか、その人の家族関係や生活背景などを考えて、必要な対応をすることが重要です。
とくに、医療や介護の現場では、病気や障害などによってこれまでの人生で大切にしてきた仕事や趣味ができなくなったり、これからの生活への不安などから自暴自棄になってしまったりすることも多くみられます。
そのなかで、治療や療養上の必要性からクライアントに指示に従ってもらうことや、がまんを強いる場面も多いため、援助者は相手の言動によって命令口調にならないように気をつけなければなりません。
クライアントの言葉や感情を受け止める
いつも悲観的な考えをするタイプのクライアントに対しては、励ましの言葉をかけるなどの元気づけも必要ですが、まずはその人の言葉や感情を受け止めることが大切です。
そのためには、相手の言葉に対してオウム返しのように励ますのではなく、聞く時間も必要です。
クライアントに「自分の言葉や感情を受け止めてもらえた」と思ってもらうことが重要なのです。
このように、援助者はクライアントの言葉や感情を受け止めることを出発点として、不安の背景になっている課題を分析し、どのようにすれば不安を解消できるのかをいっしょに考えていくことが大切です。
そのうえで、クライアントがふたたび生きがいや希望をもてるような支援が求められているのです。
初出:「透析ケア」2022年28巻5号より一部改変
白木裕子(しらき・ひろこ)
株式会社フジケア取締役社長
看護師、認定ケアマネジャー
日本ケアマネジメント学会副理事長
次回は「非審判的態度の原則」についてお話しします。