自分を知ることから始まるリーダーの第一歩

スポーツマネジメントから学ぶ!
チームを機能させるためのマネジメント力アップ講座_第1回

スポーツチームと医療看護組織には共通点があります。リーダーシップやモチベーション、チーム作り、次世代の育成など、看護の明日をより輝かせるためのヒントをお届けします。

いいチームの鍵は相互理解

質の高いチーム医療の実現や病棟のマネジメントなど、優れたチーム作りに向けた関心は医療看護組識においても高いのではないでしょうか?
数多くのスポーツチームと関わるなかで、指導者を含めたメンバー同士が深い信頼関係で結ばれたチームがあります。
その背景には「相互理解の浸透」があげられます。
選手が自分の持ち味、強みと弱みをきちんと理解し、チーム内でお互いの持ち味を認め合う。
そのうえで、強みはお互いに活かしあい、弱みは皆で補いあうことで総和を超えた成果や質の高いチームワークが発揮されます。

そのようなチームを作るためにリーダーにはどのような役割が求められるでしょうか?
その第一歩目は、自分自身を理解することです。
スポーツチームにおいてもチームの特徴や選手の状態を的確に把握している指導者は多いですが、「自分の言動が周囲に与えているさまざまな影響」に気づいていない指導者は多いです。
指導者・監督という立場を背景に「はだかの王様」になってしまっている例も散見されます。

ギリシャの哲学者タレスは、「人間にとって一番嬉しいことは、目標を達成することだ。人間にとって一番易しいことは、他人に忠告することだ。人間にとって一番難しいことは、自分を知ることだ」といっています。
孫子の兵法に「彼を知り、己を知れば百戦危うからず」とあります。
また、トインビーは、「現代人は、どんなことでも知っている。ただ、自分のことを知らないだけだ」といっています。
そういわれると、確かに、私たちの外の眼はかなり発達していて、自分をとりまく状況やそのなかでのさまざまな関係にも終始目配りをしています。
そして、かなり正確な把握もしています。しかし、トインビーもいうように、意外と自分のことはわかっていないのではないでしょうか?

これまでよく知らなかった自分についての理解が深まると、自分を取り巻く状況も、また違って見えてくるのが常です。
それは、自分と状況との関係がよく見えてくるからです。
自分に対する周囲の期待もよくわかってくるし、その期待にこれまでの自分がどのように応えてきたかの洞察も進みます。
すると、今後の行動指針もはっきりしてくるし、見通しも得られます。
このような自己理解と自己洞察が深まることで、人は自信をもって行動できるようになりますし、自身をコントロールすることもできるようになります。

自分を理解するにはどうしたらよいのでしょうか?
「自分のことは自分が一番良くわかっている」とおっしゃる方もいると思いますが、この図1を見てください。

図1 自己理解に向けた自己認知と他者認知の視点

2種類の自分がいることに気づくはずです。
まずは自身で認識している自分(自己認知:自分で思い込んでいる自分)です。
もう一つは、他者から見た自分(他者認知:他者から評価された現実の自分)です。
ここでのポイントはどちらが正しいかということではなく、自己認知と他者認知を擦り合わせながら自己理解の領域を広げていくということです。
自己開示とフィードバック、そして「今ここで」の自分の気持ちや感情と向き合いながら自己理解の領域を広げていくことが、リーダーには求められます。

さらに、自分を知るうえで重要なキーワードが「長短同根」という考え方です。
たとえば、「私は負けず嫌いで、達成するまで絶対にあきらめないことが私の長所です」と答えるアスリートがいます。
確かに、とても優れた長所である一方で、その特徴が「頑固である」という短所につながるかもしれません。
つまり、我々が長所や短所であると認識していることは、実は根っこが同じであることがよくあります。
ここでの重要なポイントは、たとえば、「あきらめない」という特徴(持ち味)が、ポジティブ(プラス)に作用するときもあれば、ネガティブ(マイナス)に作用することもあるということです。

いくつかの具体例を図2にまとめてみました。
自身の特徴(持ち味)がどのように作用し、どのような影響を周囲に与えているのか、周囲はどのように感じ、受け取っているか、を理解することができれば、自身の持ち味を活かし、コントロールすることにもつながるでしょう。

図2 長短同根

ぜひ、日常生活や日々の業務のなかで忘れがちになっている「自分への関心」や「他人への関心」を呼び戻しましょう。
そして、自身では気づかなかった「自分の持ち味」や「周囲に与えているさまざまな影響」をありのままに知ることによって、「自分に対する理解と洞察」を深め、「まだまだある自分やメンバーの可能性」を最大限に発揮できるようにしていきましょう。

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【次回予定】第2回「心理的安全性を高めるリーダーの役割」です。お楽しみに!

芳地泰幸(ほうち・やすゆき)
順天堂大学スポーツ健康科学部准教授
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科准教授(併任)
香川県生まれ。順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程単位取得満期退学後、聖カタリナ大学講師、日本女子体育大学准教授を経て現職。公益財団法人大原記念労働科学研究所協力研究員。マネジメントの視点から組織活性化や職場の創造性、リーダーシップ開発について研究している。博士(スポーツ健康科学)。


『看護マネジメントに活かせるリーダーシップ理論を知ろう』(Nursing BUSINESS(ナーシングビジネス)2024年11月号立ち読みより)

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