何年か前に、京都大学のそばにある、れんが造りのレトロな外観が特徴的な歴史ある喫茶店がテレビで紹介されたことがあります。
その喫茶店で学生たちが重厚感ある大きなテーブルの席につき、本を読んだり、書きものをしたりする姿が映し出されていました。
1930 年にオープンしたこの喫茶店の創業者で初代の店長は、日本初のフランスのパン職人だそうで、フランスで見かけた店に魅力を感じ、自身の店に本場のカフェの雰囲気を取り入れたそうです。
この番組内で私の心に響いたのは、レポーターの締めくくりの言葉です。それは、戦前より学生たちが集うそのお店のパンのショーケースの台座に、フランス語で「学ぶことは己を越えることである」と彫られているということでした。
思わず、手元にあった紙に書き写しました。当時、私は研究の困難さや論文の読み込み等で苦しんでいたのですが、それは「自分の能力との闘いだから大変なのか」と、やけに納得し、「学ぶことは己を越えることである」という言葉から大きな力をもらうことができました。
以前、セカンドレベルの受講生たちから、「レポートを書くことがとても大変」「組織分析が難しい」などといった話を聞いた際に、この「学ぶことは己を越えることである」という言葉について自分の体験も交じえて話したことがあります。
すると受講生たちも、「なるほど。大変さを感じるのは自分自身の能力との闘いだからなのですね。負けていられませんね」などと、ポジティブにとらえる力を得ていたようでした。
看護学生、卒後 1 年目、卒後 5 年目、看護管理者など、キャリアのステージによって、学びの内容は異なりますが、その時その時の学びが「己を越える」ことにつながります。「学び続けること」は自己成長のためにはとても大切なことです。「できない」と思って取り組まなければ、「できる」に変化することはありません。たとえ失敗したとしても「取り組む」ことが成長につながります。皆さんも自身のキャリアの長い時間を振り返ると、失敗から学ぶことが多かったと思います。学ぶことは「できる・できない」ではなく、「する」ことが大事なのです。

原 玲子(はら・れいこ)
日本赤十字秋田看護大学学長。仙台赤十字病院で手術室、外科病棟、外来の看護師長、教育担当看護副部長を経験後、日本赤十字社幹部看護師研修センター教務部長として認定看護管理者教育に携わる。専門は看護管理学。
出典元 Nursing BUSINESS(ナーシングビジネス)2024月9号
