2020年のパンデミックは、10年分のデジタル転換を1年でもたらしました。それは、私たちにとって全てが未経験へのチャレンジでした。今までの常識が通用しない不安感との戦いの日々でもありました。しかし、そのなかで様々なことに取り組むことで新鮮な発見を見出したことも事実です。Newノーマルとは「ストレスと新鮮の境目からの成長」なのかもしれません。
挑み続ける管理者の皆さんへエールを送ります。
思考と実践を進めた、ある看護管理者の問い
コロナ禍、ある病院の食堂を覗いた時、黙食の徹底ぶりに驚き、管理者がどれほどエネルギーを注いでいるかを知る思いでした。しかし、私が看護管理者の真の底力を知るのはこの後でした。
長引く面会禁止のルールのなかで患者・家族からのクレームは半年もするとピークを迎え、職員はその応対に追われる。疲弊した心を支え合う職員同士の対話さえも儘ならない。「このような時にどう応対をすればよいですか」との質問が私達コンサルタントにも数多く寄せられました。そのようななかで「今、患者や家族に何が起きているのか?」と質問を投げかける看護管理者に遭遇しました。その質問は職員全体に現状観察と「私たちにできることは何か?」との思考を促しました。そして「私たちが今考えるべきことは“well-being”の実現だ」、さらに「患者と家族の面会は“well-being”につながるのか?」との次なる問いを生み出し、それは「キュレーション」を起こしました。キュレーションとは「情報を収集・選別し、それらの情報を分類してつなぎ合わせ、自身の活動につなげて考えてみることを通して、新しい価値を持たせ、共有すること」です。メンバーはインターネットを駆使して“面会の意義”について調べ、親しい方との対話の医学的意義、そしてオンライン面会や窓越し面会でも同様の効果があることに辿りつき、実践してみよう、となりました。
従来であれば、オンライン面会や窓越し面会のような新しい試みの実施には、企画立案から専門家の指導、シミュレーションで問題の洗い出しと充分な時間をかける、所謂「ウォーターフォール型開発」に近い意思決定を行ったかもしれません。しかし、私たちはスピードを求められました。感染予防も患者と家族の大切な機会も、あっという間に失われてしまいます。そのため、「まずは取り組んでみる。そのなかから小さな問題を拾い上げ、その都度改善を図り続ける」という、「アジャイル型開発」のような意思決定を、時代は求めていました。
新しい状況に強い管理者の共通点
「今、患者や家族に何が起きているのか?」といった問いを発したことから、患者・家族の接点の工夫につながったように、未曾有の事態から飛躍的な成長を勝ち取る管理者には、共通点があると感じます。その一つが思考促進の「質問力」です。「今、何が起きているのか?」、さらに「今、私に求められている事は何か?」「私にできることは何か?」と、管理者ご自身が自分に思考と決断を促す質問力です。
生まれた時からインターネット環境があったミレニアム世代はお箸を使うがごとくデバイスやアプリケーションを使いこなします。それに対して、管理職世代の多くの方々は「アプリって何?」「ブラウザって何?」と基本的な用語からつまずき、ウェブの導入は管理者にとってはストレスの極みだったに相違ありません。そのようななかでも、オンライン面会を行ったり、あるいは職員の研修にウェブ活用を導入される諦めない姿勢。また別の看護管理者の方の「iPadを補助金で購入したことは、Wi‒Fi環境を更に充実させる必要があることを強く病院に認識していただくチャンスになりました」といったポジティブ思考こそが成功の鍵と再認識しました。
最初から完璧を求めるのではなく、「新たな経験での小さなつまずきは、学習ニーズを把握したことに他ならない」「反省ではなく気づきを大切に」と、リフレクションの姿勢を組織文化へとつなげる強かさに脱帽です。
永井 則子
有限会社 ビジネスブレーン
代表取締役
▼出典元 メディカファン2021年7月 あなたへのエール ~看護管理者として新型コロナウイルスとどう向き合うか~ ストレスと新鮮の境目から成長する
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