第5回 管理者には時間的ゆとりが必要な理由(看護管理者のためのタイムマネジメント)
医師の働き方改革を進めるためには、医療機関全体のタイムマネジメントが必要です。
これまで、タイムマネジメントの基本は人間関係の改善がカギになるということをお伝えしてきました。
今回は、管理者にこそ時間的なゆとりが必要な理由について解説していきます。
なぜ管理者に時間的ゆとりが必要なのか
管理者の方々にお話を聞くと、とにかく忙しくて管理業務は時間外にしかできません」「定時で帰れる日はほとんどありません」といった声をよく聞きます。
管理職は忙しくて当たり前と考えている方も多いことでしょう。
しかし、今回お伝えしたい核心部分は逆です。管理者こそ時間的ゆとりを持ってください。
その理由は2つあります。
1つは、管理者は責任者であるからです。
責任者とは管轄する部署やチームの最終責任を負う人です。
緊急会議(カンファレンス)への出席やトラブル対応にも時間を割かなければいけません。
トラブル対応が後手にまわると、各方面に迷惑をかけることにもなりかねませんので、柔軟に変更できるスケジュールを組むよう心がけましょう。
もう1つの理由は、次期管理者を育てるためです。
もう少し具体的に言うと、管理者候補となる人が、管理者の仕事ぶりを観察していて、「あんなに忙しいならやりたくない」と思わないようにしましょうということです。
せっかく能力が高くても「管理職になりたい」「将来、挑戦してみる価値がある」と思ってくれなければ意味がないのです。
管理者こそ時間的ゆとりを作って、「責任ある仕事をしながら定時で帰ることもできるのだ」という姿を見せましょう。
管理者の時間的ゆとりをどう生み出すか
では、どのようにすれば忙しい管理者の時間的ゆとりを生み出せるのでしょうか。
鍵は第3回で説明した時間管理のマトリクス(図)における第2領域(緊急ではないが重要な仕事)にあります。
具体的にいうと、人間関係づくり、予防リスク対策、準備と計画立てなどです。
人間関係づくりは、良好な人間関係を築くことで業務も円滑に進められますし、トラブル対応もスムーズになります。
トラブルを未然に防ぐためのリスクマネジメントも、先手を取って考えておきたいですよね。
看護の仕事は突発的な業務も多いため、完璧に計画どおり実行することは難しいですが、できる限り計画的に仕事を進めていくことも大切です。
余談ですが、「計画を立てる時間」を予定に入れる人は少ないようですが、これこそ最重要タスクだと思いませんか?
これら第2領域の仕事を毎日計画的に進めていくことで、突発的な業務に対応できる時間が作れます。
これを私は「クッションタイム」と呼んでいます。
つまり、後回しにしてもすぐに支障が出ない第2領域の仕事が、突発的な仕事の衝撃を、まるでクッションのように吸収してくれるという意味です。
緊急性の高い仕事に振り回されないよう、重要度の高い仕事を優先的に予定に組み入れていきましょう。
看護管理者が本来担うべき役割とは
ここで改めて考えてみてください。
あなたが担っている役割は何でしょうか? 周りから最も期待されていることは何でしょうか?
私が研修を行なった病院のある師長さんの話です。
研修を受ける前までは、残業が当たり前でしたが、残業ゼロの日をつくると決めて実践したところ、意外にもすんなり実現できたそうです。
それどころか、残業をしない日の方が多くなったくらいです。
一昔前は、遅くまで残って仕事をしている人ほど「がんばっている人」と評価が高かったし、上司を残して先に帰りにくい雰囲気があったため、残業が当たり前になっていたのです。
しかし、本来やるべき仕事を厳選して、残業をしないことを心に誓うと、それを変えることができたのです。
その姿を見て、「師長さんのように集中して仕事をして早く帰ろう」という意見が中堅や若手からも聞こえるようになったそうです。
期せずして管理者の大切な役割でもある「模範を示すこと」もできたということです。
今回は、管理者にこそ時間的なゆとりが必要な理由についてお伝えしました。
次回は、組織のタイムマネジメントを良くする方法を解説していきます。
もう少し具体的に言うと、業務改善についてです。
意外な方法についてもお伝えしますので、楽しみにお待ちくださいね。
第4回 単なる時短術ではないタイムマネジメントの基本
未来の人材育成戦略!~若手の「管理職になりたい!」という気持ちを育てる方法~全6回
山本武史(やまもと・たけし)
ポテンシャルビジョン代表
看護部専門組織マネジメントコーチ
米国CTI認定プロフェッショナル・コーアクテイブ・コーチ(CPCC)
200床以上の病院看護部を専門に、人間関係を理由とした離職とメンタル不調による離脱を防ぐ専門家。看護管理者のマネジメント能力を高めて「やめたくない看護部」をつくり、心理的安全性とワーク・エンゲイジメントの向上をサポートしている。
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