看護部門で戦略を設定する場合のBSC

第9回 看護部門で戦略を設定する場合のBSC(成果を上げるBSC活用術)

BSC活用の具体的場面として、前回は病院全体の戦略設定を紹介しました。
今回は看護部門内での戦略設定について解説します。
看護管理部門には看護部長、看護副部長という役割の方がおられると思いますが、その管理部門のみなさまが戦略を設定すると想定して話を進めていきます。

BSCをどう看護部内で展開させるのかを決める

看護部門としてBSCを作成するに当たり、まずはBSCという仕組みをどの程度理解しているのか確認しましょう。
看護師は独学でBSCを学んだ方が少なくない印象で、理解が異なる場合のもあるため、理解度合いを確認し、BSCの理解の程度をそろえたら次のステップに進んでください。

BSCを看護部として作成するにあたり、管理職者だけでBSCに取り組んでいる医療機関もあれば、病棟などの部署に落とし込み、さらに個人レベルに落とし込んで目標管理に活かしている医療機関もあります。
みなさまの組織では、BSCをどのように展開させていくことを想定していますでしょうか? 

BSC導入が初めてであれば、まずは看護部門だけで試しに行ってみるという選択もありだと思います。
もし組織内に広く展開させていくのであれば、看護管理部門にBSCの進捗や相談を受けるためのBSC担当者を決めておくことで、より運用しやすくなると思います。
もちろん看護部長が担ってもよいでしょう。

看護部としてのビジョン・今年度の看護部門の目標を見直す

BSCは、ビジョンとBSC設定期間の目標が重要です。
長年、看護部の目標を見直していない病院もあると思いますが、時流に即した言葉になっているでしょうか? 
病院のあり方が年々速いスピードで大きく変わりつつある時代において、今の職員の胸に届く言葉が使われているでしょうか? 
いつの時代も看護師としての信念は変わらないと思いますが、その表現としての文言は、時代と共に今の職員の耳に届く言葉に変化させていってもよいと思います。

ビジョンや目標を掲げる言葉には、「全職員が目指すべき方向に向き合うことが出来るための言葉」となっているかどうか確認することをお勧めします。

戦略マップからそれぞれの部署に求めたい役割を明らかにする

目指すビジョン・目標から落とし込まれた戦略マップを作成すると、たくさんある病棟などの部署に求めたい改善内容が見えてくると思います。
それぞれの部門に求めたい役割は、具体的にしておきましょう。
そうすることで、どのように改善に向けた指示を出すべきかが明確になるはずですし、部署ごとに求められている役割が共有されているほうが、各部署のモチベーションは上がりやすくなります。

ここで、組織が改善に向けて自走していくためのポイントをお伝えします。
それぞれの部署に求めたい役割を伝える際に、その具体的な役割の抽象度合いを変化させることで、部署の学習効果を高めることが期待できます。

例えば、下図のような課題に対し、AからCまでの伝え方で、部署にどんな変化が起こると想像しますか?
AからCに下がるにつれ、丁寧な説明になっています。
丁寧に説明すればするほど、「指示されたことを行う人」が育成され、「身体拘束を30%にするためにどういう試行錯誤を行えばよいのか」という考える力が育ちにくくなります。

図 伝え方による育成のちがい
A「認知症患者さんの身体拘束の割合を30%に引き下げるように」
B「認知症患者さんの身体拘束の割合を全体で30%にしたいから、そのために15日以上入院している高度急性期を終えた患者さんの拘束率について、まず30%以下に抑えるように」
C「認知症患者さんの身体拘束の割合を30%に引き下げるために、身体拘束を行っている人の一覧を出し、どのような拘束をなぜ行っているのか理由を探りましょう。そしてその中から解除できそうな人を一緒に探していきましょう」

同じ課題でも、AからCに下がるにつれ、丁寧な説明になっています。
しかし丁寧に説明すればするほど、「指示されたことだけを行う人」が育成され、「身体拘束を30%にするためにどういう試行錯誤を行えばよいのか」という考える力が育ちにくくなります

一方で、考える力が備わっていない段階でAの言葉をかけてしまうと、突き放されているように思われてしまうかもしれません。
さじ加減が非常に難しいのですが、その部署ごとの管理職の人となりやリーダーとしての資質・能力によって、どのような言葉を掛けたら、より組織としての成長につながるか意識したいところです。

BSCの振り返り頻度と振り返り方を決める

BSCを運用するうえでは、振り返りを行わなければ改善が継続されません。
忙しい業務の合間に行う作業ですので、看護管理部門の負担がどの程度になるか配慮する必要があるでしょう。
次回に示す「病棟で戦略を設定する場合のBSC」も同様ですが、BSCの運用途中に行う振り返りは、なるべくシンプルで時間をかけないようにすることが鉄則です。

振り返りは、具体的な数値等と共に「うまくいったこと」「こうすればよりうまくいくこと(改善点)」の2点を押さえていれば、長文で説明する必要はありません。
シンプルに行うという意図を伝えたうえで、わざとBSCシートの振り返りを書く場所を小さくすると運用しやすいと思います。

頻度はBSCの運用を始めたばかりであればなるべく多く、1年に4回以上(3ヵ月に1回)、慣れたら半年に1回以上行えるとよいでしょう。
ただ、慣れてしまうことで、振り返りの度に同じような内容が続かないように注意しましょう。

次回「看護病棟の戦略を設定する場合のBSC」は2月上旬配信予定です。

初出:「ナーシングビジネス2023年秋季増刊」より一部改変


第8回 BSC活用の具体的場面

上村 久子
株式会社メディフローラ代表取締役
看護師・保健師・心理相談員

東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許取得後、看護師実務の傍ら慶應義塾大学大学院にて企業人事・組織論を勉強。大学院卒業後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象とした経営改善に従事。 現在は病院経営アドバイザーとして、医療機関所有データ(看護必要度データ、DPC データ等)を用いた病院経営に関するアドバイスやデータ分析研修会、診療報酬勉強会、組織活性化研修等の人材育成の研修・教育サービスを提供中。
専門は、院内データを活用した病院経営、看護マネジメント、人材育成。自らの臨床経験とデータ分析能力を活かし、大学病院からケアミックス病院まで病院規模や病院機能を問わず幅広く活動している。


ナーシングビジネス2023年秋季増刊
看護管理者のためのBSC(バランス・スコアカード)活用術
見よう見まね・我流から脱却する!

上村 久子 編著
メディカ出版 2023年11月刊行
B5判 156頁 3,080円(税込)
ISBN: 978-4-8404-8085-7

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