新しい法整備と看護―2025年12月の決断

看護管理者は日々多くの業務に目配り・気配りが必要です。
国の施策や看護界を取り巻く状況、日々の働き方や組織づくりに関連した情報など、看護管理者が知っておきたい最新ニュースをご紹介します。

看護師の処遇改善は進むのか

2025年12月、日本の看護のあり方が進化するような法案や予算案が次々と可決・成立しました。
私たち看護師にとって、この12月は単なる「年末」ではありません。
長年置き去りにされてきた「見えない障害」への公的支援が法的に確立され、遅すぎた「処遇改善」がようやく具体的な数字を伴って動きました。

予算に関しては、本連載(2025年12月号)で紹介した「令和8年度予算概算要求」から大きな変化はありませんでしたので、本稿では、この12月に決定した3つの大きな法律を軸に、看護の専門性が今後どこへ向かうのか、そして現場が抱える「正当な不満」に関して向き合います。

医療法改正:
医師の影に隠れる「看護の汗」を直視せよ

1つ目の大きな動きは、12月に成立した医療法の改正です。
施行は一部を除き2027年4月1日となります。
今回の改正では、地域医療構想のさらなる推進や、医師の働き方改革に伴うタスク・シフト(業務移管)の加速が主要なテーマとなっています。
しかし、条文を読み込み、国会での議論を追うたびに、ある種のもどかしさが胸を突き上げます。

―なぜ、医師のことばかりが語られるのか。

法律の文言に躍るのは、常に医師の負担軽減や、医師の配置適正化です。
しかし、医療現場は医師だけで成り立っているわけではありません。
24時間365日ベッドサイドを守り、多職種連携の要となっているのは私たち看護師です。
医師の働き方が改善されるその裏で、看護師に負担がかかっている現状に、法律は十分に光を当てているでしょうか。

医療法の中で「医師の働き方」を整えるのであれば、それと表裏一体である「看護師の業務範囲と負担」についても、同等の熱量で議論されるべきです。
今回の改正を機に、看護師が本来の専門性を発揮するための「権限と責任の明確化」こそ、医療法の中に確固たる地位として刻まれるよう、私たちが声を上げ続ける必要性をあらためて感じました。

改正給与法:
民間へ波及する「評価のドミノ」への期待

2つ目は、2025年12月16日に成立した改正給与法です。
これは主に公務員である看護職員の給与改定を指しますが、その影響範囲は公立病院だけにとどまりません。

日本の医療従事者の給与体系において、公務員給与(医療職俸給表三)は、民間医療機関が基本給や諸手当を決定する際の極めて重要な「ものさし」になっています。
今回の改正で、初任給の引き上げや若手層への重点的な配分が図られたことは、全国の看護師の処遇に波及する「評価のドミノ」の第一歩といえます。
さらに12月に決定した補正予算により、2026年度を待たずして賃上げの動きが加速します。

―看護は奉仕ではない。高度な専門的労働である。

これまで看護師の給与は、どこか「やりがい」や「自己犠牲」という言葉に甘んじて、他職種に比べ低い水準に据え置かれてきた歴史があります。
しかし、処遇改善は単なるお小遣い稼ぎではありません。
適正な給与は、看護師が心身ともに健康で、自己研鑽に励み、質の高いケアを継続するための「投資」です。

今回の決定が呼び水となり、民間病院を含めたすべての現場で、「この専門性に見合う対価はいくらか」という議論が活発化することを期待します。
給与の底上げは、離職防止の最大の特効薬であり、ひいては患者の安全を守ることに直結するからです。

高次脳機能障害者支援法:
広がる舞台と置き去りの「人手不足」

3つ目は、同じく12月に成立し、2026年4月からの施行が決まった「高次脳機能障害者支援法」です。
これこそ、看護師の「全人的ケア」の真価が問われる新しい武器となる法律です。

【具体的な事例で考える支援の変化】

ここで、ある脳外科手術を終えた40代男性、Aさんの事例を想像してください。
Aさんは手術に成功し、幸い身体的な麻痺も残りませんでした。
しかし、退院間近になって、看護師はA さんの変化に気づきます。
「 一見普通に会話ができるが、さっき説明したスケジュールを全く覚えていない」
「 普段は穏やかなのに、リハビリがうまくいかないと周囲が驚くほど激昂する」

これまでの医療制度では、身体が動けば「退院」というゴールにより押し出され、Aさんはそのまま社会という荒波に放り出されていました。
そして職場や家庭で「性格が変わった」と誤解され、孤立していく。これが「制度の谷間」でした。

【法律がもたらす「切れ目ない」看護のかたち】

この新法では、こうした現状を打破するための具体的な条文が並びます。
・第11条(生活支援)
・第13条(就労支援)
・第17条(相談体制整備)
・第24条(専門的医療機関の確保)

看護師がサマリーに記す「Aさんは同時に2つのことを頼まれると混乱する」といったアセスメントから、第11条の生活支援で訓練機会や住環境の確保のサポートにつながり、第13条の就労支援で働ける環境の支援、ほかにも第17条で整備された体制により相談をして生活していきます。

今までは遠方に行かないと専門医療にかかれませんでしたが、第24条によって各地域に専門医療機関の確保が目指されるので、受診できるようになります。
看護師の「観察」が患者の「人生」を法的に守るエビデンスになるのです。

【突きつけられる「予算」と「人員」の矛盾】

しかし、看護師が活躍する舞台が広がる一方で、現場は悲鳴を上げています。
「場は増える、しかし人はどこにいるのか?」

新しい法律によって、相談拠点や地域のリハビリテーション体制の整備が進むのは喜ばしいことです。
しかし、そこに従事する看護師がいなければ、それは看板だけの組織になってしまいます。
現在、全国の病院、訪問看護ステーション、どこを見渡しても看護師不足は深刻です。

国は12月に法律を成立させただけで満足してはなりません。
この法律を真に実効性のあるものにするためには、現場で働く看護師を確保するための「大胆な予算投入」が不可欠です。
看護師が余裕を持って一人ひとりの患者の「生活」に踏み込める時間と人員を確保すること。
それこそが新法に魂を吹き込む唯一の方法です。

私たちは「変化」の目撃者ではなく当事者である

2025 年12 月の決断を経て、医療・看護の風景は確実に変わろうとしています。

医師中心の議論に終始する制度への不満。物価高に見合わない処遇への焦り。そして、専門性を発揮したいのに人手が足りないというジレンマ。

私たちはこれらの「現場のリアル」を抱えながら、毎日患者の前に立ち続けています。
しかし、12月に成立したこれらの法律は、私たちが声を上げ続け、現場で闘ってきたからこそ、かたちになったものでもあります。

法律は「枠組み」に過ぎません。
その枠の中に医師には見えない「患者の日常」を注ぎ込み、処遇改善を力に変えて、新しい地域支援のかたちをつくっていく。
その主役は私たち看護師です。

2026年度、新しい風が吹くそのとき。看護師の定義が20年ぶりに変化し、進化が求められている私たち看護師は“病院”という枠組みを越え、社会の中でより高く、より自由に、その専門性を羽ばたかせることができるはずです。
そのために、まずは目の前の患者へのアセスメントを、明日からの多職種連携を、そして自分たちの権利を主張することを、共に続けていきたいと考えます。

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坪田康佑(つぼた・こうすけ)

慶應義塾大学看護医療学部卒。Canisius College(米国ニューヨーク州)卒/MBA取得。無医地区に診療所や訪問看護ステーションを開業し、2019年全事業売却。国家資格として看護師・保健師・国会議員政策担当秘書など、民間資格ではメディカルコーチ・M&Aアドバイザーなどを持つ。
現在は国際医療福祉大学博士課程在籍、看護師図鑑(https://cango.blog/)を運営。

 ▼出典元:Nursing BUSINESS 2026年3月号
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