第10回 病棟で戦略を設定する場合のBSC(成果を上げるBSC活用術)
今回は、病棟で行うBSC の運用を考えていきましょう。
実際には看護部門がBSCの運用を発信せずに、病棟独自で運用するケースは少ないと思うので、看護部門が発信し、その後、病棟に課題が託されたことを想定して記します。
自部署の求められている役割から目標を設定する
おそらく、師長会などで看護管理部門からBSC の説明がなされると思います。
先に病院全体で戦略を設定した場合にお伝えしたとおり、そもそも病棟が所属する看護部門が、どのような組織を目指しているのかを理解するように努めましょう。
その上で、自部署に求められている役割を聞き出すようにします。
▼ 急性期一般病棟の場合
急性期一般病棟の場合は、「急性期度合いの高い患者さんを受け入れていく」「急性期が終了したら直ちに回復期病棟に転棟を促す」というように、ある程度わかりやすい目標設定ができると思います。
例えば、地域包括ケア病棟のようにポストアキュート(急性期を過ぎた患者さんを受け入れる機能)やサブアキュート(在宅医療を受けていた患者さんの状態が悪化した際に受け入れる機能)といったたくさんの機能を担い、その担う機能自体が施設基準になっている病棟の場合には、より求められる役割を明確化させていく必要があると思います。
▼ 地域包括ケア病棟の場合
地域包括ケア病棟の施設基準は、在宅医療への復帰等を鑑み複数あり、現行制度では地域包括ケア病棟は、先に述べたポストアキュート・サブアキュートいずれの機能も求められています。
そのため、自院がそもそもどちらの機能が強いのか、注意すべき施設基準は何かという共通理解がないと、病棟運営どころか、大前提となる地域包括ケア病棟入院料そのものの算定ができないことにつながります。
200床未満の病院とそれ以外の病院では、施設基準に異なる点があることにも注意しましょう(最も注意すべきは院内転棟割合の制限!)。
さらに、地域包括ケア病棟の場合には、入棟する前の属性に応じて初期加算が異なり(14 日間連続して算定される)、積み上げると金額として大きな違いになります。
例えば、地域包括ケア病棟として売上を上げていくのであれば、在宅系からの直接入院を積極的に受け入れていく方が効率的だということになります。
▼ 回復期リハビリテーション病棟の場合
急性期が終了した患者を受け入れ、リハビリを行う回復期リハビリテーション病棟は、受け入れる疾患が限定されるという特徴があります。
こちらも急性期からの受け入れをできる限り早期に行わないと、入棟時の重症割合に満たないことになりかねません。
このように、病棟ごとのBSCを作成するためには、病棟の制度を理解することが大前提です。
これは急性期や一般病棟でも同様です。所属する部署の施設基準がどのようになっているかを把握したうえで、役割を理解するように努めましょう。
具体的な成功要因と評価指標を考える
病棟運営をするにあたり、求められる機能を満たすためには、どのような成功要因と評価指標があるかを考えましょう。
この指標をどのように決めるかにより、スタッフのモチベーションを左右することにもつながると思います。
以下に紹介するのは、看護部門のみなさまの中でも、あまり得意でないと語られることの多い「財務の視点」から、看護の質と関係のある項目です。
・認知症ケア加算1~3 ・せん妄ハイリスク患者ケア加算 ・摂食機能療法(摂食嚥下機能回復体制加算1~3) ・排尿自立指導料、外来排尿自立指導料 ・在宅療養指導料 ・退院時リハビリテーション指導料 ・介護支援等連携指導料 ・入退院支援加算1~3(総合機能評価加算、入院時支援加算) ・退院時共同指導料(多機関共同指導加算) ・透析時運動指導等加算 等 |
これらは看護師のみなさまが実施されたケアが収入に直結するものです。
看護のプロとして日々行われているケアについて、診療報酬上で評価されるものが増えてきていますし、私は看護師の技術は診療報酬上でもっと評価されるべきだと思います。
収入につながるケア関連の加算は、証拠となる実施記録等が必要となりますが、それらの記録業務等の算定までのフローを簡略化することで算定件数を伸ばしている病院は多々あります。
みなさまの病棟でも、具体的な評価指標として診療報酬上で認められている加算を、ぜひ取得していただきたいと思います。
病棟内でのBSC運営の振り返りの頻度については、自部署で考えてもよいでしょう。
部署により忙しさも異なると思いますので、部署の事情に合わせて設定してください。
ただし、この振り返りの頻度は、看護管理部門と共有することを忘れないようにしましょう。
次回は組織のBSC に基づいて個人のBSC に落とし込む方法や、運用方法についてお伝えします(3月上旬配信予定)。
初出:「ナーシングビジネス2023年秋季増刊」より一部改変

上村 久子
株式会社メディフローラ代表取締役
看護師・保健師・心理相談員
東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許取得後、看護師実務の傍ら慶應義塾大学大学院にて企業人事・組織論を勉強。大学院卒業後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象とした経営改善に従事。 現在は病院経営アドバイザーとして、医療機関所有データ(看護必要度データ、DPC データ等)を用いた病院経営に関するアドバイスやデータ分析研修会、診療報酬勉強会、組織活性化研修等の人材育成の研修・教育サービスを提供中。
専門は、院内データを活用した病院経営、看護マネジメント、人材育成。自らの臨床経験とデータ分析能力を活かし、大学病院からケアミックス病院まで病院規模や病院機能を問わず幅広く活動している。