第12回 バイスティックの7原則の実践への活用(バイスティックの7原則)
バイスティックの7原則は日々活用されている
本連載で紹介したバイスティックの7原則は、アメリカの社会福祉学者であるフェリックス・P.バイスティック博士が1957年に提唱した対人援助の指針ですが、現在の医療や介護などの現場においても十分に活用できる内容であると考えます。
でも言葉としては知っていても、この理論の具体的な内容は知らなかったという人もいるのはないでしょうか。
というのは、この原則はまったく新しい考え方というより、提唱されてから60有余年を経て、医療・福祉の対人援助職の方々にとっては、常に日々の活動のなかですでに実践しているものがほとんどだからです。
つまりそれだけ浸透し、今では当たり前のことと考えられているからです。
なかでも自己決定や秘密保持の原則は、すでに個別の法律で法的な枠組みが規定されており、理念の範囲を超えて厳格に遵守すべき項目となっています。
また、個別化や受容、統制された情緒的関与、非審判的態度の原則については、法的な規定はないものの、クライアント(利用者)とよりよい援助関係を築いていくうえで援助に携わる専門職が身につけておくべき重要な項目であり、日常的な対応を行うなかで、常に保持しておきたい基本姿勢であると考えます。
一方、意図的な感情表出の原則については、どのようなケースにも常に当てはまるというものではなく、ケースの内容に応じて使い分けが必要です。
学びを現場で活用し、実践のなかでふり返る
バイスティックの7原則は、いずれの原則もクライアントとの信頼関係のうえに成り立つ手法であり、援助者の的確な判断と熟練した面接技術を要します。
このような意味において、援助業務に携わる専門職は、常に学び続けることが求められているのです。
しかしながら、多忙な日常業務のなかで、このような基本姿勢をつねに維持していくのは時には困難だと感じることもあると思います。
だからこそ、医療や介護の専門職は、書籍や研修などを通じて、さまざまな分野の学習を継続していくことが重要であり、学んだ内容を実践のなかでふり返っていくことがとても大切なのです。
ところが学習の機会を得てその内容を理解しても、実際に現場で使おうとしないケースが多く、一般的な研修でも、受講者が研修で理解したことを実行する確率は、およそ20~30%だといわれています。
パンデミック禍やその後の環境変化でも原則は変わらない
2020年、世界中に蔓延した新型コロナウイルス感染症の拡大は、多くの犠牲者も出しましたが、ワクチン接種の普及などの効果により、数年を経て収まりを見せました。
医療機関や高齢者施設などでは、年単位での長期間の面会制限や外出制限が続き、その間、患者さんや家族のみならず、従事者を含む関係者のストレスは拡大しました。
そんな中でも、バイスティックの7原則の基本姿勢や考え方は、サービスの質の向上に直結し、クライアントとの関係性や事業所の人材育成にも大きな力となりえました。
現場で活動する私たち専門職は、多様な学習の機会を、実践に活かしていくよう行動変容していく必要があるのです。
初出:「透析ケア」2022年28巻8号より一部改変
白木裕子(しらき・ひろこ)
株式会社フジケア取締役社長
看護師、認定ケアマネジャー
日本ケアマネジメント学会副理事長
本連載は今回が最終回です。1年間のご視聴どうもありがとうございました。なお、バックナンバーは画面下部の「関連投稿」からもご覧いただけます。