組織のBSC に基づいて個人のBSC や運用方法を考える

第11回 組織のBSC に基づいて個人のBSC や運用方法を考える(成果を上げるBSC活用術)

今回は、組織として設定したBSC を個人に落とし込むことで、組織の改善がより確実に行われやすくなる方法について、手順を追って紹介します。

1)組織のビジョン・目標と個人のビジョンを合わせる

組織で作成したBSCを個人の目標管理として活用する際にも、ビジョンと目標の確認は欠かせません。
ただ個人の場合には、より行動変容を促しやすくなるように、個人が看護師として・組織の一員として目指したい姿と、組織のビジョン・目標が重なる部分を意識できるとよりよいでしょう。
自分は自分、組織は組織ではなく、組織と自分をつなげるものを見つけ出すということです。

個人作業でできなければ、職場の先輩や所属長である師長が、面談を通して一緒にビジョンをつなげる作業を行ってみましょう。
こうすることにより、個人目標が達成しやすくなります。

個人の成功要因と評価指標を考える

所属する組織の目標から、落とし込まれた個人の目標を具体的に設定しましょう。
目標設定に慣れていないと具体的な数値設定を行うことに難しさを感じるかもしれません。
また、質的な内容については、数値目標を設定しにくいという方も少なくないと思います。

その場合、ゴールを100%達成とし、どのような状態だと25%、50%、75%達成になるのかとできる限り具体的な達成イメージを共有した上で、今の進捗度合いを%で表現するとよいでしょう。
この%の評価指標は組織の評価でも活用できますが、組織の評価指標はなるべく具体的な数値を設定するように努めましょう。

振り返りの頻度は個人個人異なっていてもOK

こちらも部署ごとの振り返りと同様で、個人個人のよいタイミングで行うことで大丈夫です。
振り返りのタイミングの回数をこなすことが目的ではなく、振り返りを行うことで確実な改善を促すことが目的であることを忘れないようにします。
慣れていない段階では月に1回確認するなど、なるべく頻回に行うことが良いと思います。

運用方法は組織によって自由でよし! ただし、その方法は適宜見直そう

BSC の大事な目的である、「組織があるべき姿に向けて課題を把握し改善していく」ということが達成できるのであれば、BSC の形は問いません。
みなさまが自由にやり方を工夫されるとよいと思います。
なるべく新人ナースにも伝わりやすいような表現で、誰でも理解しやすい運用方法になるように工夫ができると、なおよいでしょう。

しかし、BSC の使い方はどんな形でもよいのですが、その運用方法が効果的かどうかということはしっかり振り返り、運用そのものを改善していく意識も大切です。

よくBSC が形骸化しているというお話を伺います。
「BSCを運用しているが、効果のほどはどうだろうか?」「BSCはあって良かったと思う?その理由は?」「もっと効果的な運用が出来るとしたら、どのような方法が考えられるか?」などと問いかけるなど、形骸化していることを放置せずに、運用方法は適宜見直しをしていきましょう。
そうすることで、さらにBSC が組織の中で進化を遂げていくはずです。

BSCは実行しないと意味がない

作って満足してしまうのがBSC。シートができ上がるとうっとりと眺めるか、「やっと終わった…さあ業務に戻ろう」となってしまうこともあろうと思います。

BSC を立てること自体は、時間がかかったとしても無事に作成を終えられる方がほとんどだと思います。
新規でなければ昨年度のものを参考にしたり、新規で作るのであれば、他の病院の事例としてWeb ページを検索したりするなどして、それらを参考に作りさえすれは、ある程度の体裁を整えることができるからです。

例えば、BSC を看護部として作成したならば、看護部門の管理職である師長さんたちに師長会などを通じて伝え、その後部署ごとに作成を促し、でき上がったら師長さんたちが部署の職員に伝えて、医療機関によってはそれを個人目標に落とし込んでいく…と言った形で運用の流れを作っているところが多いと思います。

しかし、その流れのとおりに行っても目標が果たされないことがあるのがBSC の難しさです。
自分たちの職場でBSC を進めるに当たり、職員のみなさまとの勉強会でケースワークとして取り上げ、気を付けるべきことを共有するために活用することをお勧めします。

次回は最終回「BSC実行における心理的安全性」についてお伝えします。

初出:「ナーシングビジネス2023年秋季増刊」より一部改変


第10回 病棟で戦略を設定する場合のBSC

上村 久子
株式会社メディフローラ代表取締役
看護師・保健師・心理相談員

東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許取得後、看護師実務の傍ら慶應義塾大学大学院にて企業人事・組織論を勉強。大学院卒業後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象とした経営改善に従事。 現在は病院経営アドバイザーとして、医療機関所有データ(看護必要度データ、DPC データ等)を用いた病院経営に関するアドバイスやデータ分析研修会、診療報酬勉強会、組織活性化研修等の人材育成の研修・教育サービスを提供中。
専門は、院内データを活用した病院経営、看護マネジメント、人材育成。自らの臨床経験とデータ分析能力を活かし、大学病院からケアミックス病院まで病院規模や病院機能を問わず幅広く活動している。


ナーシングビジネス2023年秋季増刊
看護管理者のためのBSC(バランス・スコアカード)活用術
見よう見まね・我流から脱却する!

上村 久子 編著
メディカ出版 2023年11月刊行
B5判 156頁 3,080円(税込)
ISBN: 978-4-8404-8085-7

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