「答えが出ない状況」にどう向き合う?看護管理者に求められるネガティブ・ケイパビリティ

『つながる看護管理 VOICE』第1回目アンケート結果

看護管理者は、日々「答えの出ない状況」に直面しています。
スタッフ間の価値観の違い、患者・家族からのクレーム、組織の方針と現場の意見のギャップ―こうした問題には、単純な正解がないことがほとんどです。

こうした「不確実な状況に耐える力」として、今「ネガティブ・ケイパビリティ」 が注目されています。2024年度の聖路加国際大学大学院の入試小論文問題や、大阪府看護協会のACP支援マニュアルでも、この概念について取り上げられる1)2)など、看護教育の場でも関心が高まっています

では、看護管理の現場において、この能力はどのようなときに求められるのでしょうか?

■「正解がない状況」に耐える力

今回のアンケートでは、看護管理者のみなさまの多くが説明を読むまではこの力を知らなかったものの、77%が「スタッフ間の調整」でこの力が必要になると回答しました。
次いで「患者・家族対応」(66%)、「災害・パンデミック対応」(37%)、「キャリア形成」(34%)と続きました。

続いて、アンケートの自由回答から具体的な事例を一部紹介します。

▼ 患者やその家族への対応

  • 「療養の場を選択するとき、情報提供と傾聴を大切にした」
  • 「認知症患者に夜寝てほしいとき。家族が私たちは仕事だと思っていて理解を得られないとき」

▼ スタッフ間の調整やトラブル対応

  • 「看護部の方針と昔からいるスタッフの間で、新人教育・スタッフ育成について意見が分かれてしまったとき、スタッフに味方したい自分と、管理者として看護部の方針も理解し指導していく立場の自分があった」
  • 「考え方が違うため、正解がないとき、『私はこう思う』と伝えてみるよう話した」
  • 「問題が解決できなくても、話ができてよかったという反応があれば、自分も対応できてよかったと感じて、辛い状態(耐える力)が救われる」

自身のキャリア形成

  • 「しばらくは、答えを探さずその状態のなかで揺らぎを感じていた」
  • 「日常行っていることが正解なのか、正解は何かわからなくなっている状態で毎日耐えている」

災害・パンデミック時の対応

  • 「2021年にコロナ専門病棟に師長1年目で配属された。コロナに対する偏見が耐えるしかないジレンマに心が折れそうだったが、スタッフと話し合いを繰り返し、互いに励まし合い、助け合えた」
  • 「未知の感染症が発生した際、情報が錯綜し、地域近隣からの情報も少なく、行政への連絡も取れず孤立していた。職員も疲労困憊となり、物品も不足。先の見えないトンネルをさまようなかで体調を崩す方も多く、現場では試練の連続だった」

■管理者が実践できる3つのポイント

では、管理者はこの力をどのように養えばよいのでしょうか?

本サイトの記事「ネガティブ・ケイパビリティ ~不確実性や曖昧さを許容する力~」3)でも、ネガティブ・ケイパビリティを活かすために、「すぐに答えを出さない」「問い続けることの重要性」が指摘されています。
これらの知見をもとに、アンケート結果をふまえた3つのポイントをまとめました。

①すぐに結論を出さない勇気を持つ

ネガティブ・ケイパビリティは、問題が生じたときにすぐに解決策を求めるのではなく、不確実な状況の中で耐えながら適切な選択を模索する力です。
問題に直面したとき、「正しい答え」を焦って出すのではなく、「今は判断を保留する」ことも選択肢のひとつ。まずは現場の声を聴き、考える時間を確保しましょう。

②対話を重ねる

現場の調整には、対話のプロセスが不可欠です。
「問題点がずれていて、伝わらないこともあるため、対話の中で一つひとつ確認し、言語化して整理する」という声がありました。
すぐに結論を出さず、対話を通じてお互いの立場を理解し合うことで、解決策が見えてくることもあります。

③ 一人で抱え込まず、相談する

アンケートでは「病棟課長に相談し、思考を整理しながら対応した」「同じ立場の人に愚痴を聞いてもらいながら乗り越えた」という回答も。
ネガティブ・ケイパビリティは、管理者自身が孤立せず、相談しながら育てていく力でもあります。管理者自身が孤立しないことが、現場の安定につながります。
そして、ときには誰かにゆだねることで、耐える力は強くなっていきます。

今、看護管理者に求められるもの

ネガティブ・ケイパビリティは、一朝一夕で身につくものではありません。
しかし、「すぐに答えを出さないこと」もまた、一つの選択肢であることを意識するだけで、少し気持ちが楽になるかもしれません。
この力を、管理者としてどう育んでいくか。今後も編集室では、このテーマについて、引き続き注目していきたいと思います。

次回のアンケート予告

ぜひ、次回のアンケートにもご協力ください。
次回アンケートのテーマ(予定):看護部における「対話」とは?

引用・参考文献

1) 2024年度 聖路加国際大学大学院看護学研究科 修士課程入学者選抜(Ⅱ期)「小論文」, 43.
https://university.luke.ac.jp/admission/grad_admissions/rdjvqc0000002xnt-att/rdjvqc0000002xpm.pdf(2025年3月6日閲覧)
2) 公益社団法人大阪府看護協会.看護職のためのACP支援マニュアル.2020年.
https://www.osaka-kangokyokai.or.jp/_uploads/acpmanual.pdf(2025年3月6日閲覧)
3) 渥美崇史.ネガティブ・ケイパビリティ ~不確実性や曖昧さを許容する力~.VISIONARY-KANGOBU_No.2.2024.
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