なぜ病院・看護部でBSCが使われるのか

第4回 なぜ病院・看護部でBSCが使われるのか(成果を上げるBSC活用術)
いろいろな経営マネジメント手法が業態や組織に合わせて活用される時代

近年さまざまな種類の目標を管理する仕組みが紹介されています。
そうした背景には、業種問わず効果的な組織づくりを行うためにさまざまな経営マネジメント手法が必要とされ、時代や組織に合わせて変化を遂げながら使用されてきたことがあります。

医療の分野でも、目標を管理することでよりよい組織を作ることを目指す組織は増えてきました。
では、医療という専門性が高く特殊な組織ではどのような経営マネジメント手法が合うのでしょうか。

医療分野は「数値化した目標」との相性はよくない

▼医療の質は一定の評価がしにくい

そもそも医療の現場では、さまざまなエビデンスに基づいて治療というサービスが提供されていますが、そのサービスの質を数値で評価するとなると、解釈が困難な場合が多くあります。

例えば「治癒した人の数」を評価しようとする場合、何をもって治癒とするかは患者や評価する医療者により個人差が大きいことが困難を生み出す要因になります。
また、ざっくりと「手術件数」を目標値に挙げたとしても、地域の医療機関、地域住民の特性や自院の専門医数や麻酔医の勤務状況などにより、必ずしも達成に向けた改善行動が結果につながるとも限りません。

また、医療は診療報酬制度によりサービス内容やその評価が定められており、基本的に日本全国で統一された収入構造になっています。
そのため他業種のように自由に価格設定ができないことから、同じような機能を持つ他の病院よりも突出して収益を上げるといったマネジメントが困難であるという特徴があります。

▼達成可能な目標値の設定が困難

従って、前提として目標を掲げるにしても、医療は必ずしも達成可能な目標値を設定するのは困難な業態だといえます。
ならば目標設定をしなくてもよいのかというと、医療機関としてよりよい医療を目指し一丸となって取り組むためには、どんなものであれ目標はあった方がよいことはいうまでもありません。

では医療機関に合う「目標」とその「達成の評価」とは何でしょうか。

医療分野の目標達成には工夫が必要

▼大前提となるのは多職種が納得する目標設定

まず組織の構成員を考えてみましょう。

言うまでもなく、医療機関は看護師をはじめ医師や薬剤師、セラピストなど国家資格を持つ専門職者の集まりです。
専門職による立場が違うため、例えば医師は患者の疾患を治すことに、看護師は患者の日常生活に、そしてセラピストは可動域など体の動きに意識が向きがちです。
すると、それぞれの視点で目標値を考えてしまうと、まとまりがつかなくなります。
治療を追求したい医師の立場と治療よりも家で残りの人生を有意義に過ごせるように促した方がよい場合もあると考える看護師では、患者・家族への声掛けやケアの方向性が異なるといった具合です。

この点が、専門職という立場が異なるプロが集まる組織の難しさとなります。そこで考えたいのは、どの職種でも全員が納得するであろう「患者・家族にとってどういう状態がよりよいのかを常に意識し続ける」ということだと思います()。

図 多職種の納得が大切

患者・家族にとってよりよい医療が提供できる医療機関であるためには、病院の経営状態がよくないといけないですし、当然、医療の質も併せて向上させていかなければなりません。
この多角的な視点で考えた目指すべき組織のビジョンや戦略を、多職種で納得感のあるものにすることが、目的設定を行う大前提となることが重要です。

▼プロセスを評価できる目標とする

医療という特殊性から、目標とするものは結果である数値だけではなく、そのプロセスについても評価できるはずです。
最高の医療を提供したとしても、患者の個人差による治療結果の違いは当然起こり得るものであり、誰もが望むような結果に必ずなるということは考えにくいものです。
そうなると、結果がよりよいものになるよう、エビデンスに基づいたプロセスを提供できているかどうかが重視されるはずです。

目標を設定するにあたり、最終的な結果ももちろん大切ではありますが、それと同等かそれ以上にプロセスをしっかり評価するということが、医療従事者としてのモチベーションを維持・向上させるためにも必要な視点だと考えます。

次回「BSCとはなにか」は9月上旬配信予定です。

初出:「ナーシングビジネス2023年秋季増刊」より一部改変


第3回 よりよい組織作りを意識するために

上村 久子
株式会社メディフローラ代表取締役
看護師・保健師・心理相談員

東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許取得後、看護師実務の傍ら慶應義塾大学大学院にて企業人事・組織論を勉強。大学院卒業後、医療系コンサルティング会社にて急性期病院を対象とした経営改善に従事。 現在は病院経営アドバイザーとして、医療機関所有データ(看護必要度データ、DPC データ等)を用いた病院経営に関するアドバイスやデータ分析研修会、診療報酬勉強会、組織活性化研修等の人材育成の研修・教育サービスを提供中。
専門は、院内データを活用した病院経営、看護マネジメント、人材育成。自らの臨床経験とデータ分析能力を活かし、大学病院からケアミックス病院まで病院規模や病院機能を問わず幅広く活動している。


ナーシングビジネス2023年秋季増刊
看護管理者のためのBSC(バランス・スコアカード)活用術
見よう見まね・我流から脱却する!

上村 久子 編著
メディカ出版 2023年11月刊行
B5判 156頁 3,080円(税込)
ISBN: 978-4-8404-8085-7

立ち読み・ご購入はこちら

Scroll to Top