看護管理者は日々多くの業務に目配り・気配りが必要です。国の施策や看護界を取り巻く状況、日々の働き方や組織づくりに関連した情報など、看護管理者が知っておきたい最新ニュースをご紹介します。
筆者は以前(本連載第4回/2024年4月号)、厚生労働省の動きを分析するには、厚生労働省の予算を見るのがよいと紹介しました。
今回は、その予算を検討するために、看護界の代表が厚生労働省の代表に提出した要望書から、看護界の未来を予測していきます。
日本看護協会の要望書
2024年5月30日、公益社団法人日本看護協会の高橋弘枝会長が、武見敬三厚生労働大臣に「令和7年度予算・政策に関する要望書」を提出しました。
これは、看護界の代表として厚生労働省の代表に対して来年の看護の方向性を示し、具体的な改善を求める重要な文書です。
厚生労働省は、看護師一人ひとりの意見を直接集約しているわけではないため、この看護協会が提出した要望書が、看護師の声を代表するものとして対応されます。
今回の要望事項は大きく3点に分かれています。
(1)外来医療・看護の機能強化
(2) 看護DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
(3) 看護現場の長時間労働是正および労働者の健康確保
一見するとバラバラな要望のように見えますが、実際には3点のうち2点が看護DXに関する内容です。
まず「(1)外来医療・看護の機能強化」に関しては、ICT を活用した外来医療・看護提供体制に触れられており、今後の遠隔看護の発展が期待される内容です。
また「(2)看護DXの推進」はその言葉の通り看護DX を推進するための財源確保と支援体制の強化を求めるもので、看護師の働き方を支援するためのDX支援を訴えています。
看護DXにより医療機関で格差が生じるか
言葉こそ「看護DXの推進」となっていますが、中身はデジタル技術やICT活用といった表現が多く見られます。
DXは、単なるデジタル化やIT化、ICT化とは異なり、これらを踏まえた業務の再構築、すなわち全体最適を目指すものです。
急な変化には対応できない医療機関が出てしまう危険性があるため、DXという言葉を使いながらも、業務内容が完全に変わるのではなく、業務がデジタルワーカーに置き換わるかたちで記載されており、看護協会の配慮が感じられます(図1)1)。
1)デジタル技術導入にあたっての一層の財源確保 ●看護業務の効率化・負担軽減を推進することで、看護職員の定着及び看護サービスのさらなる質向上が期待される。 ●デジタル技術を導入した看護実践の普及のために必要な財源の一層の確保等の対応を図られたい。 2)デジタル技術導入に係る相談支援体制の強化 ●特に中小規模の医療機関では、デジタル技術の導入を検討する際の人材確保も大きな課題である。 ●看護DXの推進は、医療機関全体の業務効率化・負担軽減に向けて重要な取組みであり、医療勤務環境改善支援センターにおける、デジタル技術活用等についての相談支援体制について、さらなる強化を図られたい。 |
筆者は、この配慮が諸刃の剣であると感じました。
急な変化が起きない代わりに、DXの文脈をしっかりと読み込み、業務を再構築し、筋肉質な組織へと生まれ変わることができる医療機関と、業務をデジタルに代替するだけに終わった医療機関で、大きな差が生まれる可能性があります。
具体例として、看護カルテの音声入力、ロボットによる作業効率化、ICTを用いた情報共有から、細かなものだと勤務表作成ソフトの導入などが挙げられています。
各ソフトやシステムの導入費の支援があったとしても、将来的にはシステム利用料を各医療機関が支払わなければならないときがやってきます。
そのときに、全体最適を意識して取り組んできた医療機関と、部分最適で全体不最適になってしまった医療機関では、支払わなければならないコストが変わってきます。
看護管理者が押さえるべき看護DX
日本国内において、2018年の経済産業省の「DXレポート」からDX化が進み、厚生労働省の2022年の「医療DX令和ビジョン2030」でDX化が加速していきました。
2024年からは看護現場におけるDX促進事業や訪問看護のDX加算など、看護界でもDX化が加速しています。
今回の要望書から、2025年以降もより一層看護DXの波が加速していくことが予測されます。
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看護管理者としては、DXの意味をしっかりと理解し、全体像を意識して対応していかないと、予算が切れたときに大きな問題に直面する可能性があります。今後も看護DXの動向に注視し、適切な対応を心掛けていきましょう。
引用・参考文献
1) 日本看護協会.ニュースリリース(2024年6月3日)【厚生労働大臣に要望】看護DXを踏まえた外来の機能強化と看護現場の労働環境改善を.
https://www.nurse.or.jp/home/assets/20240603_nl01.pdf(2024年8月7日閲覧)
坪田康佑(つぼた・こうすけ)
慶應義塾大学看護医療学部卒。Canisius College(米国ニューヨーク州)卒/MBA 取得。無医地区に診療所や訪問看護ステーションを開業し、2019年全事業売却。国家資格として看護師・保健師・国会議員政策担当秘書など、民間資格ではメディカルコーチ・M&A アドバイザーなどを持つ。
現在は国際医療福祉大学博士課程在籍、看護師図鑑(https://cango.blog/)を運営。
▼出典元:Nursing BUSINESS 2024年10月号
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